IFSCC Congressについて、これほど大規模かつ多様な科学研究を一堂に集めるにあたり、どのような課題がありますか。
最大の課題は、質の高い研究がとにかく多いことです。今回は1,200件を超えるアブストラクトが寄せられ、その一つひとつを個別に審査・採点しなければなりませんでした。IFSCCには厳格な審査プロセスとスケジュールがあり、最も優れた研究だけが選ばれる仕組みです。それでもプログラムの対象は、基礎生物学や処方戦略から、生産のスケールアップ、先端分析技術にいたるまで、多岐にわたります。柱としているのは、基礎研究と応用研究の2つです。
肝心なのは、それが確立された科学なのか、真に新しい芽なのか、それとも既知の知見を別の用途に当てはめただけなのかを見極めることです。また、確かな科学的知見と、流行りのテーマにすぎないものとを見分けなければなりません。
そこにIFSCC Congress(国際化粧品技術者会連盟 世界大会)の大きな価値があります。商品化される前の研究に触れられることが多く、技術が市場に出る何年も前に業界の行き先が見えてきます。だからこそ、科学プログラム全体を俯瞰することに大きな意味がある。完成品や目先の市場トレンドだけを追うよりも、進むべき方向がはっきりと見えてきます。
in-cosmetics Asiaのようなイベントは、最新の研究成果と実際の製品開発を、どのように橋渡しできると考えますか?
in-cosmetics Asiaのようなイベントは、IFSCC Congressで発表された科学的知見が、市場に出せる原料や製品へと形を変えていく、その重要な接点にあたります。
新しい研究成果にまず最初に出会えるのは、多くの場合IFSCCです。作用メカニズム、新しいデリバリーシステム、新たな生物学的ターゲット、新技術を、まだ開発途上の段階で目にすることができます。
一方in-cosmeticsでは、それらのアイデアが実用化に向けて動き出したところに触れることができる。原料サプライヤー、処方開発者、ブランド、製造業者、研究者が一堂に会するため、関心は「科学的に面白いか」から「実際にどう使うか」へと移っていきます。
このつながりが大切なのは、優れた研究がそのまま優れた製品になるとは限らないからです。反対に、科学的裏づけの弱い製品は、マーケティングの誇大な謳い文句に見合わないこともあります。製品にするには、処方設計、安定化、狙った部位へのデリバリー、適切な試験による裏づけ、安定した品質での製造、そして消費者に伝わる訴求づくりまで、いくつもの段階を経なければなりません。
in-cosmetics Asiaのようなイベントの価値は、発見から応用までの距離を縮めることにあります。研究者にとっても、市場がどんな技術課題の解決を求めているのかを知る機会になり、それが次の研究に生かされていきます。
グローバルな化粧品科学のコミュニティにおいて、今後、特に連携を深めるべきなのはどの領域でしょうか。
最も可能性を感じるのは、分野の垣根を越えた連携です。化粧品科学は急速に複雑化しており、もはや処方化学と従来の皮膚生物学だけを扱う分野ではありません。バイオテクノロジー、微生物学、神経科学、免疫学、材料科学、データサイエンス、先端イメージング、マルチオミクスが関わる研究が増えてきました。これらすべてを自社内で高いレベルで実施できる組織はごくわずかです。
優れた研究ほど、複数の組織が手を組むことで生まれていると思います。たとえば、ブランドは消費者や臨床評価のエンドポイントをよく理解しています。大学には高度な分析力があり、バイオテク企業はまったく新しい生産プラットフォームをもたらしてくれます。原料メーカーはスケールアップや処方化に強く、試験機関は専門的な評価モデルを提供できます。
また、国際的な連携も、さらに深められるはずです。地域によって得意分野も、肌や髪の特徴も異なります。研究の専門化が進むほど、それぞれの強みを持ち寄ることが重要になっていきます。
in-cosmetics Asiaでのご講演の内容と、見どころを教えてください。
私の講演では、IFSCC Congress全体から浮かび上がるサイエンスの潮流を取り上げます。世界のブランド、大学、原料サプライヤー、研究機関から寄せられた800本を超える論文、計8,000ページ以上の未発表研究を対象に、キーワードやトレンド、使われる言葉や研究の方向性がどう変わってきたかを読み解いていきます。
問いはいたってシンプルです。何が変化しているのか。何が新しいのか。何が賞を獲得しているのか。サイエンスは我々をどこへ導こうとしているのか。そして、次に来るものは何か。
研究がどこへ向かっているのか、今後数年の製品開発に影響を与えそうな科学領域はどこかを見ていきます。狙いは、研究のトレンドから科学の進む方向を読み取り、業界の今後の針路を示すことです。その点でIFSCCは非常に役立ちます。製品化される何年も前に、こうしたアイデアに触れられるからです。実際、2023年のバルセロナ大会で私が見いだした同様の技術群は、2025年に原料として上市されました。業界より2年早く動向をつかんでいたことになります。
化粧品科学とイノベーションの発展において、アジア太平洋地域はどのような役割を担っているとお考えですか。
今回のパースでのIFSCC Congressは、アジア太平洋地域での対面開催としては20年ぶりの大会でした。そのため今年は同地域からの参加が特に活発で、投稿数は欧州と南北アメリカの合計を上回りました。当然の結果といえるでしょう。
今年の大会に限らず、アジア太平洋地域は、研究の量でも、その中身においても、大きな役割を果たしています。
この地域から生まれる独自研究は技術的に高度なものが多く、基礎科学と実用化への明確な道筋を兼ね備えた研究も増えています。しかも大国に限った話ではなく、ニュージーランド、マレーシア、インドネシア、シンガポールなど、設立間もない学会や小規模な学会も参加するようになっています。
研究、製造、製品開発、そして店頭に並ぶ製品までの距離が近いことも、この地域の強みのひとつです。バリューチェーンの各段階がすでに密接につながっているため、新しい科学的アイデアが処方開発や試験へと素早く移行するケースが少なくありません。また、原料サプライヤーのデータのみに依存するのではなく、自社のオリジナル研究によって差別化を図るブランドも増えています。
今後数年で、化粧品科学者にとって最も大きなチャンスはどこにあるとお考えですか。
特に大きな可能性があるのは、ヘルシーエイジング、具体的には皮膚・頭皮・毛髪の「ヘルススパン(健康寿命)」をどう延ばすかというテーマだと考えています。
私にとって、これは単に「長寿(ロンジェビティ)」を語るよりもはるかに実りのある視点だと思います。化粧品は肌や髪を「長生きさせる」ためのものではありません。大切なのは、肌や髪が本来の機能やレジリエンス(ストレスへの耐性)、回復力をできるだけ長く保てるよう、どう支えられるかを理解することです。
この視点に立つと、化粧品科学者が取り組める領域は一気に広がります。シワ、色素沈着、髪の細り、頭皮の不快感といった目に見える兆候だけに注目するのではなく、その根底にある生物学に目を向けられるからです。皮膚や頭皮は、ダメージを受けた後どれだけ速く回復できるのか。細胞間のコミュニケーション、修復プロセス、組織のホメオスタシスは、時間の経過とともにどの程度維持されるのか。加齢とともに少しずつ失われたり衰えたりする機能を突き止め、それを補ったり取り戻したりする方法を開発できないか。
同じ考え方は毛髪にも当てはまります。損傷した毛髪を後から処置するだけでなく、頭皮と毛包の生物学、そして炎症、細胞ストレス、局所環境の変化といった要因が、毛髪の質や成長に長い時間をかけてどう影響するのかを、より深く理解する余地があります。
これにより、原料探索、デリバリーシステム、バイオマーカー開発、先進的な皮膚・頭皮モデル、臨床試験にいたるまで、幅広い分野で新たなチャンスが生まれると考えています。また、製品開発の考え方としても優れています。目に見えるダメージを補修するだけの発想から、皮膚・頭皮・毛髪の健康を保つ根本的な機能を支える発想へと転換できるからです。
とはいえ、訴求には慎重さが求められます。化粧品で老化を止めたり、逆戻りさせたりできるかのような表現は避けるべきです。それでも、ヘルシーエイジングへの理解を深め、機能をより長く保つ製品を開発することには、確かな可能性があります。
目指すのは、皮膚や頭皮、毛髪を「永遠に生かす」ことではありません。健やかで、きちんと働く状態をより長く保てるよう手助けすることです。
本リリースはin-cosmetics Asiaが発表した英文プレスリリースを『Cosmetic Science』編集部が和訳したものです。原文(英語)は併載のPDFをご参照ください。内容に相違がある場合は、原文が優先します。