※細胞が皮膚などの生体の組織内を移動すること
ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社（本社：神奈川県横浜市、社長：片桐崇行）は、シワ部位の研究を進め、細胞の遊走に関わる因子について、以下3点を発見しました。
- シワ部位の真皮では、ビンキュリンという細胞の遊走因子（補足資料1）の発現量が低下していること
- 真皮線維芽細胞は、ビンキュリンの発現が少ないと遊走スピードが落ち、シワ部位でのコラーゲンが修復されにくい可能性があること
- ドクダミから抽出されたエキスが、真皮線維芽細胞のビンキュリン発現量を増加させること
線維芽細胞の遊走因子である 「ビンキュリン」 にシワ部位で着目
真皮にはコラーゲンやエラスチンなどのハリ・弾力に関わる成分が豊富にあり、これらの成分を新しく産み出したり、修復したりするのが真皮の線維芽細胞です。線維芽細胞は、真皮の中を遊走することが知られており、周囲の環境を把握して、コラーゲンやエラスチンにつかまり接着しながら、細胞の形を伸び縮みさせて遊走します。この活動には細胞膜の内側にある「ビンキュリン」というタンパク質が関わることが分かっています（補足資料1）。
シワ部位の真皮ではビンキュリンが減っていた
これらの事実から私たちは、シワ部位においては細胞遊走に関わるビンキュリンに何らかの変化が生じ、修復が必要なコラーゲンなどに線維芽細胞が速やかに到達できていない可能性があると考えました。
そこで、シワがある皮膚を用いてビンキュリンの発現量を解析したところ、シワの無い部位に比べ、シワ部位ではビンキュリンが減っていることを新たに発見しました（補足資料2)。
ビンキュリンが減った線維芽細胞は遊走スピードが落ちる
次に、ビンキュリンが減少した真皮線維芽細胞では、実際に遊走スピードが変化しているかを検証しました。その結果、ビンキュリン発現量を人工的に減少させた細胞では、正常な細胞と比べ、遊走がゆっくりになっていることを確認しました（図1、補足資料3）。つまり、シワ部位では真皮線維芽細胞のビンキュリン発現量が減少することで、遊走スピードが遅くなっていることが示されました。
以上の結果から、シワ部位では真皮線維芽細胞が適切な箇所へすぐに到達できず、コラーゲンなどの産生や修復が滞ることがシワ形成に関与すると考えられます（図2）。
線維芽細胞のビンキュリン発現を増加させるエキスを発見
最後に、真皮線維芽細胞のビンキュリン発現量を増やすエキスを探索しました。その結果、ドクダミから抽出されたエキスがビンキュリン発現量を増加させることを新たに見い出しました（補足資料4)。
本研究は、細胞の遊走スピードの観点でシワ形成メカニズムに新しい知見をもたらしました。
【補足資料1】 真皮線維芽細胞の遊走の仕組みとビンキュリンについて
真皮線維芽細胞は、まるで人間がボルダリングをする際に手や足を近くの足場に掛けて一歩ずつ進んでいくように、近くのコラーゲンやエラスチンなどを足場として接着しては、細胞の形状を伸び縮みさせて、遊走しています。その際に重要な役割を果たすのが、接着因子と結合し細胞膜の内側に存在する「ビンキュリン」というタンパク質です。ビンキュリンは、細胞周囲で何かに触れた機械的な力を化学的なシグナルに変換して、細胞外の情報を細胞内に伝え、遊走と恒常性を保つ役割を担っていると言われています（図3）。
【補足資料2】 シワ部位の真皮では細胞遊走に関わる因子 「ビンキュリン」が低下している
同一人物の顔のシワ部位と、その近くのシワが無い部位の皮膚を用い、ビンキュリンに目印を付けました。解析の結果、シワ部位の真皮では、シワの無い部位の真皮と比べ、ビンキュリンタンパク質の発現量が低下していることが分かりました（図4）。
【補足資料3】 ビンキュリン遺伝子発現量が少ない真皮線維芽細胞は遊走スピードが低下する
＜図1の実験の詳細＞
線維芽細胞が存在する真皮の環境を模した実験をするため、真皮に見立てたコラーゲンゲルを準備し、真皮線維芽細胞をその上に置いて、24時間で細胞がどれだけゲル内を遊走するか観察しました。細胞にはあらかじめ、ビンキュリン遺伝子発現量を人工的に減少させた「抑制群」と、「正常群」を準備し、比較しました。
得られた図1の画像から、細胞が遊走した距離を算出した結果、ビンキュリンを減らした細胞は減らしていない細胞と比べて、単位時間当たりの遊走距離が短くなりました。つまり、ビンキュリン遺伝子発現量が少ない真皮線維芽細胞は遊走スピードが遅くなることが分かりました（図5）。
【補足資料4】 細胞遊走スピードに関わる因子 「ビンキュリン」 の遺伝子発現量を増やすエキスの探索
上記検討から、シワ部位で低下しているビンキュリンについて、その遺伝子発現量を増やす化粧品用植物エキスを探索しました。さまざまな候補植物エキスを、真皮線維芽細胞と反応させて調べたところ、ドクダミエキスが、真皮線維芽細胞のビンキュリン遺伝子の発現量を有意に増加させることが分かりました（図6）。
