ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長:片桐崇行)は、微小皮膚採取技術であるマイクロバイオプシー(補足資料1)を用いて、個々のシミ(老人性色素斑)の遺伝子発現状態から、個々のシミごとに形成要因が異なる可能性を見出しました。本知見は、2025年8月16日~17日に開催された第43回日本美容皮膚科学会総会・学術大会にて発表されました。

シミは複数の要因から形成される可能性

 個々のシミの見た目には大きさや色の濃さといった差が見られますが、内部の状態も差があると考えられています。シミ形成の主要なメカニズムとして、表皮細胞(ケラチノサイト)の刺激による色素細胞(メラノサイト)の活性化、色素細胞におけるメラニン過剰産生、色素細胞から表皮細胞へのメラニン輸送促進、表皮の細胞の入れ替わり※1遅延による表皮細胞へのメラニン蓄積等が知られています(図1)。各要因の影響力はシミごとに異なると考えられており、個々のシミの特徴を詳細に分析することが求められていました。

※1 表皮ターンオーバー

微小皮膚採取技術「マイクロバイオプシー」により個々のシミの遺伝子発現分析が可能に

 シミの形成に関与する要因を把握するためには、そのシミの内部に存在する細胞の遺伝子発現状態を調べる必要があります。皮膚採取の方法として従来から「パンチバイオプシー※2」という方法がありますが、人体への負担が大きく、シミを対象として行うには課題がありました。そこでポーラ化成工業では、わずかな負担で皮膚を採取するため、微小皮膚採取技術「マイクロバイオプシー(補足資料1)」を用いてシミ部位の皮膚を採取し、網羅的に遺伝子発現量を測定する手法を確立しました。

※2 局所麻酔後に直径2~4 mmの円柱状の筒で皮膚をくり抜く手法

個々のシミごとの形成要因の違いを明らかに

 個々のシミの形成要因を調べるため、AIを用いて網羅的な遺伝子発現量から各シミ形成要因に関連する遺伝子グループを選定し、各グループがどの程度活発に発現しているかを定量化しました。その結果、シミによって各グループの遺伝子発現状態には違いが認められ、個々のシミごとに主要な形成要因が異なる可能性が示唆されました(図2、補足資料2)。今後は本知見をもとに、一人ひとりに合ったシミ対策の早期実現を目指し、さらなる研究に取り組みます。なお、本研究は、長年にわたり医療と化粧品の両面で色素研究に携わってきた池袋西口病院の船坂陽子医師(補足資料3)と共同で実施しています。

【補足資料1】 マイクロバイオプシーとは

 マイクロバイオプシーは、注射針よりも細い直径250 µm程度の針により、皮膚からごく少量の細胞を採取する手法です(図3)。極めて傷が小さいため従来技術のパンチバイオプシーより治りが早く、特定の部位の皮膚を経時的に採取して皮膚状態の変化を追うことも可能になりました。極小の採取面積で特定の部位だけ的確に得られることもメリットです。また、皮膚の細胞そのものが得られるので、DNAやRNA、タンパク質など多くの観点で分析することができ、より正確な皮膚内の状態・変化の把握につながります。

 ポーラ化成工業では今回、マイクロバイオプシーで採取した微小皮膚のRNAから全遺伝子の網羅的な遺伝子発現量を測定する手法を確立しました。この技術を活用することで、皮膚において重要な役割を持つ新たな遺伝子の発見につながる可能性があります。ポーラ化成工業では、このようなマイクロバイオプシー技術を活用し研究開発を進めています※3

※3  参考リリース: ポーラ化成、先端技術「マイクロバイオプシー」を肌内部の評価に活用
https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20231213.pdf

【補足資料2】 遺伝子発現に基づく個々のシミの形成要因の分析

 女性120名を対象に、医師の管理の下、クリニックにてマイクロバイオプシーを用いてシミ部位と健常部位の皮膚を採取し、網羅的な遺伝子発現を調べるRNAシーケンス解析により遺伝子発現量を測定しました。まず、シミ形成の主要なメカニズムとして知られる要因ごとに、シミに特徴的な遺伝子をAIを用いて選定しました。選定された遺伝子は表皮角化やメラニン代謝等のシミ形成に関わる機能を持ち、シミ部位と非シミ部位を高精度で判別可能※4でした。このことから、選定されたシミ特徴遺伝子は生物学的に妥当性があるものと考えられます。さらに、選定された遺伝子の発現量に基づき、個々のシミ形成要因を分析しました(図4)。

※4 テストデータに対してのROC-AUCは0.95以上。ROC-AUC: モデル精度の評価指標。0から1の範囲を取り、1に近いほどモデルの性能が良いことを意味する。

【補足資料3】 共同研究先について

池袋西口病院・船坂陽子医師

 船坂陽子医師は神戸大学医学部を卒業後、皮膚科臨床に従事しながら国内外の大学・大学院に所属し、研究活動に積極的に取り組んでこられました。特にシミの形成メカニズムの解明や美白剤の開発に注力され、日本色素細胞学会会長、国際色素細胞学会会長、美容皮膚科・レーザー指導専門医委員会委員長などを歴任し、美容皮膚科の教育・発展にも大きく貢献されてきました。2024年4月より池袋西口病院・美容皮膚科に勤務し、地域医療の一翼も担われています。