日本メナード化粧品株式会社(愛知県名古屋市中区丸の内3-18-15、代表取締役社長:野々川 純一)は、藤田医科大学(豊明市沓掛町田楽ヶ窪1番地98)応用細胞再生医学講座(教授:赤松 浩彦)および皮膚科学講座(教授:杉浦 一充)との共同研究により、皮膚老化の新たなメカニズムを明らかにしました。
本研究では、本来は炎症を抑制する働きを持つ免疫細胞の一種「制御性T細胞(Treg)」が、加齢に伴って慢性炎症因子であるIL-17を分泌する異常なTregへと変化することを確認しました。さらに、これにより過剰に分泌されたIL-17の影響によって、マクロファージによる老化細胞の除去機能が抑制され、その結果として老化細胞が皮膚に蓄積することを発見しました。
これらの知見から、異常化したTregによるIL-17分泌を抑制し、マクロファージの老化細胞除去機能を正常化できれば、新たな皮膚老化の予防につながると期待されます。

近年の研究から、加齢に伴い老化細胞が体内に蓄積することが明らかになってきました。さらに、これらの老化細胞は、炎症性物質(SASP因子)を分泌し、組織を慢性的な炎症状態に陥らせ、老化をさらに促進すると考えられています。そのため近年では、老化予防において、老化細胞を適切に除去し、体内に蓄積させないことが重要であるという考え方が広がっています。
本共同研究グループはこれまで、マクロファージによる老化細胞の除去機構に着目し研究を進めてきました*1。今回、皮膚の真皮における老化細胞の蓄積メカニズムを解析した結果、本来は炎症を抑制する「制御性T細胞(Treg)」が老化細胞から分泌されるSASP因子により異常化すること(①)、異常なTregが慢性炎症因子 IL-17 を分泌すること(②)、分泌された IL-17 によりマクロファージによる老化細胞除去機能が抑制されること(③)、その結果、老化細胞が蓄積して慢性炎症状態になること(④)を明らかにしました。
これらの知見から、Tregを正常化し老化細胞の除去を促進することで、慢性炎症状態が抑えられ、抗老化へつながることが期待されます。
この研究成果は国際学術雑誌「Experimental dermatology」のオンライン版に掲載されました。
*1 2020年11月5日配信ニュースリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000048666.html
1.老化と抗老化の仕組み
正常な細胞は、紫外線などのダメージを受けることで老化し、正常に機能を発揮できないだけでなく、SASP因子※と呼ばれる、組織を傷害する炎症性サイトカインやコラーゲン分解酵素などを周囲に分泌することが知られています。近年の研究から、加齢に伴ってこのような老化細胞が体内に蓄積していくことが明らかになっており、その結果、組織が慢性的な炎症状態に陥り、老化がさらに加速すると考えられています。そのため近年では、老化細胞を特異的に除去する薬剤の開発が進められています。
本来、このような老化細胞は、免疫細胞の一種である「マクロファージ」によって除去されています。また、過度な炎症を抑制するために、「制御性T細胞 (Treg)」 と呼ばれる免疫細胞が働き、慢性炎症が生じないように調整されていることが知られています。このように生体には、老化細胞を除去するとともに炎症を抑えることで、老化の進行を防ぐ抗老化の仕組みが備わっています(図1)。
しかしながら、実際には加齢により老化細胞が蓄積し(図2)、慢性的な炎症が生じることが確認されています。そこで本共同研究グループは、免疫系細胞の働きに着目し、加齢による皮膚の慢性炎症および老化細胞の蓄積にどのように関与しているのかについて詳細に解析を行いました。
※SASP因子:老化細胞が分泌する炎症物質や組織を分解する酵素などのタンパク質群の総称。


2.加齢に伴い制御性T細胞(Treg)が慢性炎症因子(IL-17)を分泌する性質をもつ
老化を加速させる慢性炎症を抑制する役割を担う制御性T細胞(Treg)について、皮膚における加齢変化を解析したところ、加齢に伴い、慢性炎症因子であるIL-17を分泌する異常なTregの割合が増加することを確認しました(図3)。さらに、TregがIL-17を分泌する異常な状態へと変化する原因について検討した結果、老化細胞から分泌されるSASP因子である炎症性サイトカインIL-1βとIL-6が、TregにおけるIL-17の分泌を促進させることが明らかになりました(図4)。


3.制御性T細胞(Treg)から分泌される慢性炎症因子(IL-17)は老化細胞の除去を阻害する
次に、異常な制御性T細胞(Treg)から分泌されるIL-17について詳細に解析した結果、IL-17がマクロファージによる老化細胞の除去機能に影響を及ぼすことが明らかになりました。
皮膚の真皮では、マクロファージが細胞死を誘導する因子を分泌し、老化細胞を死滅させ、除去していることがわかっています。そこで、本研究では、このマクロファージによる細胞死誘導に対するIL-17の影響について調べました。
その結果、IL-17に曝露された老化細胞は、マクロファージによる細胞死誘導に対して抵抗性を持つようになることがわかりました(図5)。

4.まとめ
本研究から、皮膚において、制御性T細胞(Treg)の異常により老化細胞の除去が抑制されることで、老化細胞が蓄積し、皮膚の老化が促進することが明らかになりました(図6)。
これまでの本共同研究グループの研究から、真皮ではマクロファージが老化細胞を除去する役割を担っていることがわかっています。今回の研究では、本来は炎症を抑制する働きを持つTregが、加齢に伴って慢性炎症因子の一種であるIL-17を分泌する細胞に変化し、そのIL-17の影響により、マクロファージによる老化細胞の除去機能が抑制されることを確認しました。その結果、老化細胞が皮膚に蓄積し、慢性的な炎症が誘導され、組織の老化がさらに促進されると考えられます。
これらの知見から、TregによるIL-17の分泌を制御することで、老化細胞の除去を正常化し、皮膚の老化予防につながると期待されます。

制御性T細胞(Treg)とノーベル賞
制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg)は、免疫反応を抑制し、免疫が自分自身の組織を攻撃しないように制御する重要な免疫細胞の一種です。このTregの発見と、免疫寛容の仕組みを解明した功績により、大阪大学・特任教授の坂口志文先生らが、2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞されています。Treg研究は、自己免疫疾患やがん、慢性炎症、老化など幅広い生命現象の理解を大きく進展させており、本共同研究グループでは、Tregと皮膚の老化との関係に着目し、研究を進めています。