ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長:釘丸和也)は、肌のハリに重要な血管に着目して研究を行った結果、以下の2点を発見しました。

  1. 血管内皮細胞において、ジャンク(がらくた)と呼ばれるDNA領域から作られるRNA(補足資料1)の一種、「GATA6-AS(補足資料2)」が少ないと、最終糖化産物※1によるダメージが加速してしまうこと
  2. ボタンエキスが血管内皮細胞の「GATA6-AS」を増やすこと

 血管内皮細胞のGATA6-ASを増やすことで糖化ダメージに対して強く丈夫な血管になり、肌の細胞に栄養が届きやすくなることが期待されます。本成果は、ポーラ・オルビスグループから発売される製品に活用されます。

※1 タンパク質と糖が結びつく糖化反応によりできる産物。AGEsとも呼ばれる。細胞ダメージの元となることが知られている。

肌の健康と美容のために、血管に「耐糖化」力を -肌の血管を糖化ダメージに強くする-

 血管には体の隅々まで栄養を届けるという重要な役割があり、肌の細胞も、肌の血管を介して栄養を受け取っています。しかし、血管の内側を流れる血液の中には、細胞にダメージを与える一因である「最終糖化産物」が多く含まれています。さらに血管の外側にもコラーゲンなどが糖化してできた最終糖化産物が存在していることから、内外から糖化ダメージを受けやすいと考えられます。
 そこで血管を糖化ダメージに強い状態に変えることで、血管を健全に保ちたいと考えました。まず、血管を構成する血管内皮細胞において、糖化ダメージへの抵抗力(耐性)に寄与する因子を見つけ、さらにその因子を増やすエキスの探索を行いました。 

GATA6-ASが少なくなると、細胞は最終糖化産物によるダメージに弱くなる

 ポーラ化成は、「がらくた」と考えられていたジャンクDNAに注目し、重要な役割を果たすものを見出してきました※2。ジャンクDNAは DNA全体の98%をも占めることからさらなる可能性が秘められていると考え、本研究でもジャンクDNAに着目しました。
 研究の結果、血管内皮細胞においてジャンクDNAから作られる「GATA6-AS」というRNAが減少すると、最終糖化産物により細胞の生存率が下がってしまうことを見出しました(図1)。つまり、「GATA6-AS」が糖化ダメージから血管を守る鍵であるといえます。 

※2 「『がらくた』と考えられていたジャンクDNAに宝」 
http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20200630_03.pdf 

ボタンエキスがGATA6-ASを増やす 

 血管内皮細胞の「GATA6-AS」を増やすエキスを探索した結果、ボタンエキスに効果があることを発見しました(補足資料3)。ボタンエキスには血管内皮細胞の糖化ダメージへの耐性を高める効果が期待できます。
 従来はダメージのもとである最終糖化産物を作らせない・減らすアプローチが中心でしたが、本知見により、肌の血管そのものを糖化に強いものに作り替え、自らの肌をダメージに強くすることでハリなどをキープするという新たなケアの可能性が開かれました。

【補足資料1】 重要な役割を担う可能性を秘める 「ジャンクDNA領域」と、そこから作られるRNA

 ヒトのDNAのうち、コラーゲンやエラスチンなどのタンパク質に翻訳される領域はわずか2%であり、それ以外の領域はこれまで、不要な「ジャンクDNA」であると考えられていました(図2)。しかし近年、ジャンクDNAの大部分がRNAへ転写され、その一部は、染色体の構造やエピゲノム※3を調整するなど、非常に重要な役割を担うことが分かりつつあります(図3)。最近でも、LINC00942 というジャンクDNAが線維芽細胞の活性を高めることが明らかになりました※2(前項)。つまり、「がらくた」と考えられていた領域には、実は「宝物」のような情報が潜んでいるのです。

※3 DNAの塩基配列を変えずに後天的に遺伝子の働きを変える仕組み

【補足資料2】 血管を糖化から守る鍵 「GATA6-AS」

 GATA6-ASはジャンクDNA領域から作られるノンコーディングRNAのひとつで、細胞の移動や細胞間接着因子の形成など、血管内皮細胞としての機能の維持に関わることが知られていました※4。 
 今回、血管内皮細胞を使った実験で、GATA6-ASの発現を抑えると最終糖化産物に対する受容体の発現が増えることが明らかになりました(図4)。このことから、GATA6-ASが減ると、細胞は最終糖化産物の影響を受けやすくなると考えられます。

※4 参考文献: Nature Communications (2018) 9:237

【補足資料3】 ボタンエキスとその作

 ボタンエキスは牡丹(ボタン)の根の皮の抽出物で、牡丹皮(ボタンピ)と呼ばれ、漢方薬などに使われる生薬としても知られています。牡丹は「百花王」「富貴花」などの別名をもち、中国では「花の王」と呼ばれ、国花とされていた時代があったと言われるほどです。日本でも、「立てば芍薬 座れば牡丹」のように女性の美しさの例えにも使われています。 
 培養した血管内皮細胞を使った実験において、ボタンエキスにGATA6-ASを増やす働きがあることが確認できました(図5)。このことから、ボタンエキスによって糖化ダメージに強い細胞になることが示唆されました。