ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長:釘丸和也)の籠橋葉子研究員(補足資料1)が、第14回オートファジー研究会「若手の会」(補足資料2)において、オートファジーの分解メカニズムに関する研究成果を発表し優秀発表者賞を受賞しました。

●受賞対象となった研究について

 ポーラ化成では2010年ごろからオートファジーの生体における重要性に注目し研究を行っています。2019年からは籠橋研究員を含む若手研究員2名が、ノーベル生理学医学賞受賞者で、次世代の人財育成にも多大な貢献をされている東京工業大学 大隅良典栄誉教授の研究室に在籍。基礎研究の発展に寄与するとともに、一流の研究者が集まる環境で日々研究に打ち込み基礎研究力の研鑽を積んでいます。本研究はその研究成果を発表したものです。

●発表の概要

■演題    『オートファジックボディの分解メカニズムの解明』

■発表者      籠橋 葉子(ポーラ化成工業㈱、東京工業大学)

共同発表者    川俣(堀江)朋子 助教、大隅 良典 栄誉教授(東京工業大学)

■発表内容概要(補足資料3)

 オートファジーとは、細胞のもつ大規模な分解・リサイクルシステムのひとつで、タンパク質や古くなったミトコンドリアなどを二重の膜で囲み隔離した後、分解し、再生のための原料を供給する仕組みです。
 従来、オートファジーのメカニズム研究では、初期に「膜がどのように形成されるか」に重きが置かれてきました。一方で、液胞に入った後で「膜の分解がどのように起こるのか」については、約30年間ほとんど進展がありませんでした。
 本研究では、酵母を用いた実験により、脂質分解酵素とタンパク質分解酵素の二種の酵素が連携して膜の分解が起こることを突き止めることができました。これにより、分解メカニズムへの理解が飛躍的に進みました。オートファジーが関わる疾患や老化の対応策の検討にも役立つと期待されます。

●大隅良典栄誉教授からのメッセージ

 以前から世界中で何人もが取り組んできたオートファジーの難問の1つに対する挑戦でしたが、籠橋さんの粘り強い頑張りで大きな前進が見られて大変嬉しいです。残り少ない在学時間、最後の論文を世に出す作業を通して、さらなる成長を期待します。
 今回は企業と大学との新しい連携のあり方に対する私の最初で最後の試みでしたが、参画してくれた2人にとって掛け替えのない3年間になったに違いないと思っています。ポーラ化成のご理解に深く感謝しています。

左:籠橋研究員 右:大隅栄誉教授

 ポーラ化成工業は、この仕組みを深く追求していくことで、多くの方々が健やかに彩ある生活を送ることができる社会に貢献していきたいと考えています。 

【補足資料1】 受賞者のプロフィール

籠橋 葉子(かごはし ようこ) 
ポーラ化成工業 フロンティアリサーチセンター / 東京工業大学 細胞制御工学センター

 2017年ポーラファルマに入社、2018年からポーラ化成工業に所属。皮膚薬物動態の研究に従事した後、2019年から東京工業大学細胞制御工学センターの大隅良典栄誉教授の下でオートファジーの基礎研究に打ち込む。現在、博士後期課程。

【補足資料2】 オートファジー研究会と若手の会について

■オートファジー研究会について
 オートファジー研究会は、大隅良典栄誉教授が発起人となり、日本国内のオートファジー研究者を結集してオートファジー研究に関する未発表成果を発表し合い、議論を深めることを目的として1996年に設立された専門学会です。オートファジー分野では日本がこれまで世界を先導しており、その最先端の研究レベルを維持するために大いに貢献してきました。

■若手の会について
 若手研究者(学部生、大学院生、ポスドク、非常勤の教職員など)による口頭発表の部で、オートファジー研究会の初日に開催されます。優秀発表者賞は、発表された15の研究の中から、大会の運営に関わる有識者の先生方で協議したのち投票により2演題が選出されました。

【補足資料3】 オートファジーのしくみと今回の発見について

 オートファジーは、私たちの体を形作っている細胞が正常な機能を維持するために必要なリサイクルの仕組みです。細胞内のタンパク質や古くなったものを分解し、新しいタンパク質を作る材料や細胞機能の維持に役立つものに生まれ変わらせることで、細胞の健康を保ったり、栄養環境の変化に対応したりすることができます。
 オートファジーの工程(図1上)では、まずタンパク質や古くなった小器官などを二重の膜で包み隔離し、(酵母の場合は)液胞内に取り込みます。取り込まれたものを「オートファジックボディ」と呼びます。続いてオートファジックボディの膜が分解されることで中身が液胞中に放出され、液胞中のさまざまな酵素により分解されていきます。
 本研究では、いまだ解明されていなかったオートファジックボディの膜の分解メカニズムを、酵母を用いた実験により明らかにしました。  ※ ヒトなどの哺乳類の細胞ではリソソームと融合し分解される

【研究成果(図1下)】

  1. ある脂質分解酵素によって、オートファジックボディの膜が壊される
  2. その脂質分解酵素の働きは、特定のタンパク質分解酵素によって制御を受けている